高血圧治療ガイドライン
「血圧はどこまで下げるべきなのか?」という質問は、特に高血圧と診断された人々にとって重要な問題ですね。その答えは、「降圧目標」にまとめられています。これは、理想的な血圧の数値の目安で、高血圧治療ガイドライン(2019年版)で提案されています。
ガイドラインによれば
最新のこのガイドラインによれば、収縮期血圧(いわゆる「上の血圧」)は130mmHg未満、そして拡張期血圧(「下の血圧」)は80mmHg未満が理想的とされています。つまり、これまで「正常範囲」だと思われていた「130~139/80~89mmHg」は、現在では「高値」血圧と見なされています。
では、なぜこのように基準が厳しくなったのでしょうか。その理由は、血圧が130mmHg未満かつ80mmHg未満を維持できれば、高血圧が原因となる脳卒中や心筋梗塞をより効果的に予防できる、という考え方に基づいています。
この基準の改訂により、「私は高血圧なのか?」「薬を飲む必要があるのか?」といった疑問がたくさん出てきました。
アメリカの研究では、高血圧になる可能性が高いと思われていた130~139/80~89mmHgの血圧でも、心臓や血管に関わる病気で命を失うリスクが、理想的な血圧「120/80mmHg未満」に比べて1.5倍以上になることが分かりました。この結果、アメリカや欧州では、高血圧の基準が130/80mmHgに引き下げられました。しかし日本では、高血圧の基準は引き続き140/90mmHgです。これは、日本人と欧米人とでは食事や体型などが違うため、アメリカ人のデータをそのまま日本人に適用するのは適切ではないという議論があったからです。
病気にならないために
しかし、高血圧にならないための予防策として、「高値」血圧という新たな基準が設けられました。これは、病気になってから治療するという従来のアプローチから、血圧が高めの段階で早めに注意を払い、病気にならないようにするという新しい方針の表れです。
この新しい基準により、血圧が少し高めでも、生活習慣の改善を始めて、血圧を「120/80mmHg未満」まで下げることが推奨されています。ですので「血圧が130/80mmHgになったらすぐに降圧剤を服用しましょう」というわけではありません。
とはいえ、「高値」血圧や高血圧を何もせずに放置しておくと、健康な生活習慣を続けるための努力が十分に報われないかもしれません。なぜなら、血圧を下げることが難しくなってしまうからです。最悪の場合、脳卒中や心筋梗塞を引き起こし、結局は一生降圧剤を服用せざるを得なくなるかもしれません。だからこそ、生活習慣の改善を始めるタイミングは「130/80mmHg」が指標となるのです。
ただし、診断基準の140/90以上と降圧目標の130/80未満は、医療機関で血圧を測定した場合の数値です。自分で家庭で血圧を測定する場合は、診断基準は135/85以上、降圧目標は125/75未満となります。そして、75歳以上の方の降圧目標は、一般的に140/90未満とされます。
生活習慣を見直すこと
大切なことは、高血圧の予防や診断後の管理にあたっては、必ずしもすぐに薬に頼るのではなく、まずは生活習慣を見直すことです。特に塩分の過剰摂取、運動不足、肥満には注意が必要です。適切な塩分摂取、適度な運動、健康的な体重の維持、アルコールの適量摂取、喫煙の回避、ストレスの管理、定期的な健康チェックなどを心掛けましょう。これらは一見当たり前のように思えますが、実際には非常に重要な健康維持のポイントとなります。
例えば、塩分の摂取について考えてみましょう。食事から取り入れる塩分が多いと、体内で水分を保持しやすくなり、その結果として血圧が上昇します。そうなると、血管に負担がかかり、時間と共に血管が硬くなったり、心臓に負担がかかったりする可能性があります。そこで、食事から取り入れる塩分の量を見直し、適切な量に調整することが大切となります。
運動不足については、体を動かすことで血流が良くなり、血管が健康に保たれる効果があります。適度な運動は、血圧を自然に下げる効果もあります。そのため、運動不足を解消し、適度な運動を続けることも大切です。
肥満については、体重が増えると心臓に負担がかかり、血圧が上がる傾向にあります。健康的な体重を維持することで、心臓や血管への負担を軽減し、血圧を適切な範囲に保つことができます。
また、喫煙は血管を収縮させて血圧を上げるだけでなく、長期的には動脈硬化を引き起こし、心臓病や脳卒中のリスクを高めます。喫煙を避けることは、血圧管理だけでなく全体的な健康維持にも寄与します。
アルコールについても、適量を守ることが重要です。大量のアルコール摂取は血圧を上げる効果があるため、適量を超えないように気を付けましょう。
そして、ストレスの管理は、心身の健康を保つために欠かせない要素です。ストレスが溜まると自律神経が乱れ、それが血圧上昇につながります。リラクゼーション法を学んだり、趣味を持ったりして、ストレスを適切に管理することが大切です。
健康チェックを
定期的な健康チェックを行うことで、自分の健康状態を把握し、早期に問題を発見することができます。特に高血圧は「無症状の殺人者」とも呼ばれるほど、自覚症状が少ない状態が長く続くことが多いです。そのため、自身の血圧がどの程度なのかを知り、必要ならば早めに対策を講じることが重要です。
また、食事の質も非常に重要です。塩分を控えめにするだけでなく、バランスの良い食事を心掛け、特に果物や野菜、全粒穀物を多く摂るようにしましょう。これらの食品は血圧を下げる効果があるとされています。
食事以外にも、十分な睡眠と良好な睡眠環境の確保も血圧管理に寄与します。睡眠不足はストレスを引き起こし、それが血圧上昇につながります。十分な睡眠をとることで、体のリカバリーを促進し、健康を維持することができます。
さらに、繰り返しになりますが、適度な運動も血圧管理には重要です。運動は、体重管理に効果的であり、ストレスの軽減、心肺機能の強化、血流の改善など、血圧を下げるさまざまな効果があります。ただし、運動を始める前には、医師に相談することが必要です。
最後に、血圧管理は一時的なものではなく、日々の生活の中で続けていくことが大切です。食生活や運動習慣などを見直すだけでなく、定期的に血圧を測定し、自身の健康状態を把握し続けることが重要です。また、医師や医療専門家と定期的にコミュニケーションを取り、適切なアドバイスを受けることもおすすめします。それにより、長期的な視点での血圧管理と健康維持を図ることが可能となります。