糖尿病腎症

糖尿病性腎症の新しいエビデンスと治療の進歩について

糖尿病性腎症の治療は、血糖値、血圧、脂質管理といった従来の基本から、SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬、非ステロイド型MRAのような新しい治療薬の導入により大きく変化しています。

 これらの進展は、腎症進行の抑制だけでなく、患者の生活の質の向上にも寄与すると期待されています。しかし、医師、看護師、栄養士などの医療チームによる総合的なケアが依然として糖尿病性腎症治療の中核をなすことは変わりません。

1. 糖尿病性腎症の現状

 糖尿病性腎症は、日本における末期腎不全の主要な原因で、2021年の新規慢性透析療法導入原因の約40%を占めています。

糖尿病性腎症では、アルブミン尿/タンパク尿の増加と共に腎機能の低下が見られますが、アルブミン尿が陰性であっても腎機能低下が起こるケースも存在します。

 JDCP studyの解析によると、2型糖尿病患者5194例のうち、アルブミン尿陽性率は約30%、腎機能低下例は約15%、アルブミン尿陰性の腎機能低下例は約9%でした。

2. 新たな治療エビデンス

 糖病性腎症治療の基本は血糖値、血圧・脂質の管理、レニン・アンジオテンシン系阻害薬の使用、食事療法です。

 Steno-2 studyJ-DOIT3 studyでは、2型糖尿病患者への集約的治療により腎症の発症や進展が抑制されることが示されました。

 DNETT-Japanでは、スタチンを用いたLDLコレステロール低下療法が腎不全への進行阻止に有効であることが示されました。

 最近では、SGLT2阻害薬とGLP-1受容体作動薬が腎イベントリスクを減少させることが示され、CREDENCE、DAPA-CKD、EMPA-KIDNEY試験により、これらの薬剤が慢性腎臓病患者において有効であることが明らかになりました。

3. ガイドラインによる推奨

 KDIGOのCKDにおける糖尿病管理ガイドラインは、最新の臨床試験エビデンスを基に、SGLT2阻害薬とGLP-1受容体作動薬の推奨を改訂し、非ステロイド型MRAへの推奨を新たに追加しました。

 SGLT2阻害薬は、eGFRの下限値が「20mL/min/1.73m²以上」に変更され、非糖尿病CKD患者への有用性と安全性が確認されています。

4. 新しい時代の治療

 糖尿病性腎症治療には、血糖値・血圧・脂質の管理、減塩とタンパク質制限を基本とする食事療法、ACE阻害薬/ARBを基本に、SGLT2阻害薬、非ステロイド型MRAを加える薬物療法が推奨されます。

 腎症を伴う糖尿病患者の血糖管理にはSGLT2阻害薬とGLP-1受容体作動薬が推奨されており、脂質管理ではスタチンが使用されます。

 このように、腎症に対する薬物療法は大きく進歩していますが、チーム医療による包括的アプローチの重要性は変わりません。

 MRAに関しては、フィネレノンに関するFIGARO-DKDFIDELIO-DKDの臨床試験結果が注目されています。これらの試験では、最大耐用量のRAS阻害薬を使用してもアルブミン尿が陽性である2型糖尿病患者において、フィネレノンが腎臓と心血管への有益性を示しています。また、投与開始後は血清カリウム値を定期的に検査することが推奨されています。

 米国糖尿病学会 (ADA) の2023年ガイドラインでも、SGLT2阻害薬や非ステロイド型MRAのエビデンスに基づいた推奨が記載されています。このように、糖尿病性腎症治療のパラダイムは新しい時代に突入しており、患者の治療選択肢が拡大しています。

まとめ

 総じて、糖尿病性腎症の治療は、血糖値、血圧、脂質管理といった従来の基本から、SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬、非ステロイド型MRAのような新しい治療薬の導入により大きく変化しています。

 これらの進展は、腎症進行の抑制だけでなく、患者の生活の質の向上にも寄与すると期待されています。しかし、医師、看護師、栄養士などの医療チームによる総合的なケアが依然として糖尿病性腎症治療の中核をなすことは変わりません。

港南台内科クリニック