掲載日: 2023-03-26
心不全

心不全:原因、症状、診断、治療、生活習慣の注意点

 心不全とは、心臓のポンプ機能が不十分になり、全身に影響を及ぼす症状を指します。心不全の原因は様々であり、診断や治療もそれぞれの症例に合わせて行われます。薬物治療が主流である一方、生活習慣の改善も大切な治療の一つです。心不全の診療には、循環器専門医が必要であり、定期的なフォローアップも必要です。

心不全とは?

 心臓は、私たちの体に血液を送り出し、回収する大切なポンプの役割を果たしています。しかし、心臓がうまく機能しないと、全身の機能に悪影響を及ぼし、身体に心不全の症状が現れることがあります。

 心不全は、単なる病名ではなく、心臓の機能不全による身体の症状を表します。原因は、心筋梗塞や心臓弁膜症、高血圧、心筋症、不整脈など様々であり、時として心臓以外の原因(例えば甲状腺機能の異常など)によるもの、など多岐にわたります。

 治療方法も原因に応じて異なります。そのため、医師が心不全を診察する際には、まず原因を調べることが重要です。

ポンプ

心不全の症状は?

動悸・息切れ

 心不全は全身に影響するため、各所に様々な症状がでます。代表的な症状を並べると、以下などがあります。

  • 動悸、息切れ
  • 呼吸苦、起座呼吸(横になると苦しい)
  • 手足や顔のむくみ(浮腫)
  • 疲れやすい、だるい
  • 食欲低下、腹部膨満感
  • 尿量の低下

 同じような症状を引き起こす他の疾患(例えば肺炎や腎不全など)も多くあるため、きちんと検査をして鑑別を行う必要があります。

心不全の診断は?

 様々な検査が必要とされます。診断に必要な検査は、心臓や全身の状態を正確に把握し、原因を見つけることが大切です。

 全身の診察は、心不全に限らずどの病気の診断にも重要な要素です。全身の状態を調べることで、心不全以外の病気が原因である場合も見逃さずに診断することができます。

 心電図は、心臓の電気的な活動を測定する検査で、心不全を引き起こす可能性のある心臓疾患の判別に役立ちます。また、胸部レントゲンでは、心臓の大きさや形、肺に水がたまっていないか、などを診ることができます。これらの検査は、心不全の原因を特定するために欠かせません。

 心エコーは、心臓の形や動きを直接みることで、心不全の原因になっている心臓疾患の診断、そして心臓機能の低下の程度を診断します。この検査は、心不全の治療法の決定に必須であり、放射能への被曝もないため繰り返し行え、心不全の方の経過観察目的で定期的に検査することも重要です。

 さらに、血液検査では、BNPやNT-proBNPといった心臓機能が低下すると上昇するホルモン値を検査します。これらの値は腎臓機能の影響を受けるため、上がっていたからすぐに心不全、という訳ではなく他の検査との組み合わせで判断することが重要です。また、BNP値の計測は、診断につながるだけでなく、心不全の治療状況を適切に把握するためにも大変有用です。

心エコー
心エコー

 心不全は総合的な診断を行うことで、原因や程度を正確に把握し、最適な治療法を選択することができます。

 心不全の診断には、様々な検査がありますが、その中でも最も重要なのは、患者さんの症状や身体の異変に注意を払い、的確な検査を行うことです。医師が、患者さんの症状や検査結果を総合的に判断し、適切な治療法を提供することが、心不全の治療においては欠かせません。

 また、心不全の診断だけでなく、治療後の経過観察も重要です。定期的な検査や通院、薬の服用、生活習慣の改善など、患者さんと医師が協力して治療を続けることが、心不全の予後を改善するために必要です。

 心不全の治療には、原因や病態に合わせて様々なアプローチが必要とされます。まずは、心不全の原因を特定することが治療の第一歩となります。心不全の原因は、高血圧や弁膜症、冠動脈疾患、心筋症など多岐にわたります。そのため、正確な原因を明確にするためには、適切な検査が必要となります。

治療の方法は

 急性心不全と慢性心不全で異なります。 急性心不全の場合は、入院治療が必要となることが多く、緊急の対処が求められます。まずは原因となった病気の治療を優先し、安静やリハビリなどを通じて、日常生活への復帰を目指します。

  慢性心不全の場合は、治療に時間がかかり、継続的なケアが必要です。薬物治療が中心となり、利尿剤や血管拡張剤、β遮断剤、強心剤などが使われます。これらの薬物は、心臓の負担を軽減し、心臓機能を向上させるために必要です。

 近年、心不全治療に使用される新しい薬剤が増えてきています。その中でも、利尿剤の一種であるトルバプタンは、V2受容体拮抗薬と呼ばれる薬剤で、心臓にかかる負担を軽減し、尿の排出を促進する効果があります。また、利尿剤と心臓保護剤を組み合わせたサクビトリルバルサルタン(ARNI)も、心不全治療に用いられています。これは、血管を拡張する作用があり、心臓への負担を軽減することで、心不全の進行を遅らせることができます。

 さらに、糖尿病治療薬であるSGLT2阻害剤も、心不全治療に有効であることがわかっています。この薬剤は、糖尿病患者の血糖値を下げるだけでなく、利尿作用や血圧低下作用も持っています。これにより、心臓にかかる負担を軽減し、心不全の進行を遅らせることができます。

 ただし、これらの薬剤を使う場合には、患者の心機能、腎機能、血圧、生活状況などを考慮しなければなりません。心不全の治療は、患者一人一人の状態に合わせたオーダーメイド的な治療が必要とされます。そのため、医師は患者の状態をしっかりと把握し、適切な薬剤を使い分けながら治療を行っていくことが重要です。

 しかし、薬物治療だけでなく、生活習慣の改善や運動療法も重要です。例えば、塩分制限や適切な食生活、禁煙などは、心不全の治療において欠かせないものです。また、適度な運動は、心臓機能を向上させ、筋力を増強することができます。

 総じて言えることは、心不全の治療には、原因や病態に合わせた多角的なアプローチが必要であるということです。適切な治療法を選択するためには、患者の病歴や症状、生活状況、薬物治療に対する反応などを考慮することが必要です。

入院
リハビリ

心不全治療には、薬物治療以外にも、体力維持や食事管理、ストレスマネジメントなどの生活習慣の改善も欠かせません。例えば、適度な運動は心臓機能を向上させ、生活習慣病の予防にもなります。また、塩分や水分の制限が必要な場合もあります。食事は栄養バランスが良く、カロリー制限やタンパク質の摂取量を調整することも大切です。心不全患者は、通常の人々よりも高いリスクであるため、予防接種も重要です。インフルエンザや肺炎球菌などの予防接種は定期的に受けることをお勧めします。

また、最近では、心臓リハビリテーションが注目されています。心臓リハビリテーションは、医師や理学療法士などの専門家の指導の下で、運動療法や心理的支援、栄養指導などを行い、心臓機能の改善や再発予防を目的としています。心臓リハビリテーションには、運動療法による身体機能の改善や、生活習慣の改善による再発予防などの効果が報告されており、患者のQOL向上にもつながるとされています。

最後に、心不全治療においては、患者さんや家族との信頼関係を築き、適切な情報提供やコミュニケーションを行うことが大切です。治療方針やリスク、副作用などについて、わかりやすく説明することで、患者さんや家族が治療に積極的に取り組むことができます。また、治療に対する不安やストレスにも配慮し、心理的サポートも行うことが必要です。心不全治療は長期間にわたるものであり、患者さんや家族のサポートも重要な役割を果たします。

 

港南台内科クリニック