糖尿病を専門に診ていた内科の私が、認知症診察もと思い立った理由(後編)
前編のあらすじ
横須賀で糖尿病の専門外来をしていた際、在宅も手伝い始めた。横須賀は軍港や港、海のイメージが大きいが、実は谷戸と呼ばれる地形であり、車やバイクの入れない階段100段、200段もざらというところに住んでいる方も多い。そういうところに在宅を行くことで、その方がまだ歩けていた際は逆にこの道を通って通院しているのだということに気づき、それから外来のスタイルが変わった。
また認知症の患者さんを精神科の先生と一緒に見る機会があり、精神科の先生が介入することにより、認知症のいわゆる周辺症状を改善することで、家族の介護の負担が軽減することを目の当たりした。
後編
実際、私が内科で診ていた方で認知症の方を一緒に診ていた精神科の先生が介入することで、周辺症状(後述)が改善し、家族の介護負担を軽減し、家族に笑顔が戻っていくのを何度も診ました。
糖尿病の外来にて糖尿病だと初めて分かった初診の方には、『糖尿病は一生治るものではなく、付き合っていくものですよ』と私は話しています。
糖尿病は良くなることはありますが、風邪、気管支喘息、胃潰瘍や骨折のように完治するということはなく、そういう意味で、伴侶と同じように?いい時も悪い時もあると思いますが、そういうことも含めて付き合っていかなければならないものと考えています。
ただ、実際、糖尿病で外来をしていく中で長く診ている方がしだいに認知症になっていくことをたびたび経験していく中で、しかし認知症は専門でなく診れない、認知症は、薬はあるが、でもいかんともし難いものであると思っていました。一生付き合っていく糖尿病をともに付き合っていくはずの糖尿病の医師が、認知症になったから、診れなくなることにジレンマも抱えていました。
そんなことを感じていた際に精神科の先生の加療をみる機会に恵まれたのはとても幸運でした。まず在宅を手伝っていた三輪医院の千場先生より、その精神科の先生(阿瀬川先生、伊丹先生でした)を紹介していただき、まずは私の空き時間に見学させていただきました。
それが今でも縁で外来をさせていただいている、横須賀の汐入にある汐入メンタルクリニックであり、当初は阿瀬川先生、後藤先生、伊丹先生の外来に一緒に入り勉強させていただきました。
学生時代(ポリクリ)や研修医時代も先輩の外来を一緒に入るということはカリキュラムとしてありましたが、その時に比べて、自分が外来を実際やるようになり、また目的意識を持って入るからだと思うのですが、他の先生のそれも他科の外来をある期間集中的に“みる”ことはとても良い勉強となりました。
糖尿病の外来と、精神科の外来には実は共通点が多いことにも気づきました。例えば、どちらも生活習慣、運動が大切なこと、どちらも完治するというよりは、病気とうまく付き合っていくことが大切なこと、どちらもとても長い期間、患者さんが病気とまた、主治医と付き合っていくことになる点など、また患者さんを内科(糖尿病)側の観点だけでなく、精神科側からのアプローチの仕方を身につけることで その人を多面的に診ることができようになり医師としてとても幅が広がりました。 実際、精神科のインテークは、糖尿病外来にも非常に応用できると気づき今は私の大きな武器になっています。
そんな形で、外来を見学するだけでも収穫の多かったわけですが、ある時に阿瀬川先生より、観ているだけでなく実際、外来をやってみたら? と言われ、始めることになりました。初めての認知症の外来は、研修医の時の初めての外来並みに緊張し、あの感覚は久しぶりだったことを覚えてます。
その時に実はiPro2というずっと連続で血糖測定のできるデバイスを着けていたのですが、外来時は緊張か血糖が少し上がり、終わった瞬間に血糖が下がっていました。
その後、見識を広げるために精神科の勉強会も積極的に出るようになり、その中で、内科とは違う、アプローチでの講演や臨床研究のやり方など、得てして糖尿病内科の先生は、この薬剤を使うとHbA1cがこのくらい下がった、血糖がこのくらい下がったとしか言わない(自らそうであったので反省の意味を込めて)そうでなく、数値に表れにくいものをいかに評価して治療効果を計るか?は目からうろこでした。
またいろいろな先生と出会うことができ、話し、その中にはプライベートでも仲の良くなった方々もたくさんできました。そんな感じで、糖尿病専門で診ていた私が、認知症も勉強し診察できるようになったわけですがいまでも、汐入メンタルクリニックでの外来は継続中であり私の中ではとても大切な時間となっています。
在宅医療を手伝っていた際、私についてくれた看護師さんがとても優秀で助かりました。私自身は全く足りないのですが、その足りない部分を往診時、そっと先回りしてフォローして頂けたり、私が判断に迷っているときや気づけなかったところをそれとなしに他の先生はこんな風にしていると教えていただいたりと私のぎこちなさをしっかりフォローして助けてもらうこともたびたびありました。
在宅の医療事務も、多岐に及びとても大変なのですが、私が忘れそうなことをきちんとリマインド、助かりました。
また訪問時に出会う 理学療法士さんやケアマネさんやヘルパーの生の仕事をみたことも、その後訪問診療だけでなく、外来にも幅を広げることとなりました。医師一人では、実は大したことは何もできないものです。いわゆる今ではよく言われる、チーム医療というのはこういうものをいうのだということも、実際いをもって経験し学べた横須賀でした。
現在、当院では在宅医療は行っていませんが、それでも自分のクリニック内でこういうことに近いこと感じで看護師、管理栄養士、事務、医師皆で、やっていけたらと思って毎日やっています。 最後まで読んでいただきありがとうございました。
周辺症状BPSDとは
周囲の人との関わりのなかで起きてくる症状。暴言や暴力、興奮、抑うつ、不眠、昼夜逆転、幻覚、妄想、せん妄、徘徊、もの取られ妄想、弄便、失禁などで、その人の置かれている環境や、人間関係、性格などが絡み合って起きてくるため、人それぞれ表れ方が違います。